広がるコンタクトレンズの可能性
テレビで頻繁に流れる音楽やファッションが、あたかも最高の価値を持つものとして社会の流行になる。
大勢の人たちが同じものに飛びついて買いに走る。これらも自己の価値観の喪失、テレビや大衆社会の指示に従って行動する、現代日本を象徴する現象です。
テレビという、立体的な世界を映しているようで実は平面的な文化の繁栄が、日本社会に与えた影響の大きさを私たちはあらためて実感し直す時期に来ています。子どもも大人も大半が、「一流校から一流企業へ、それが人生の幸せに通じる」という幻想からまだ逃れられず、受験戦争や企業社会で余裕のない毎日に追われています。
その結果が、「自分の眼で見たこと、5感で感じたことをそのまま反射的に行動に移す」、人間としてごく当たり前に身につけていた行動機能を失うという、あまりに愚かで皮肉な結果をもたらしているのです。もう一度、自分の5感を頼りに生きていく、自分で人生を嗅ぎ分けていく、自然に自分で好きな道や生き方を選んでいく……。
ひとりひとりの才能や感覚が大切にされ、それが結集されて社会全体が活性化する、そんな愉快で豊かな社会が再生されるよう、願わずにいられません。自分自身の眼と脳を刺激するのはもちろんですが、健全な眼を持った、つまりは健全な心と身体を持った子どもたちを育てるために、いくつかのヒントをあげておきたいと思います。
子供たちに経験を与える努力が大切です。川の中を歩く、凸凹の道を走る昔は川の中で遊ぶ機会は日常的にありました。
足もとは不安定で、濁った川の中は見えません。どんな生き物がいるのか、足もとにどんな石や泥があるのか。
子どもたちは想像をめぐらせ、足もとから伝わる情報から無意識に身体のバランスをとっていたのです。その機会が失われた最近の子どもたち、大人たちの、こうした能力が衰えるのは当然です。
いま、日常的に歩ける川を身近に見つけるのは大変でしょうから、それに代わる環境として凸凹の道や石ころだらけの道を探しましょう。近くの公園に行けば、地面が凸凹の場所があるでしょう。
下手をすれば捻挫しかねませんが、徐々に慣らせば、足もとの情報を内の眼が処理し対応する能力が高まっていくはずです。これは人間としてもっとも大切な能力を育てる方法のひとつです。
段差のあるところから軽く飛び降りる子どもたちは、高いところから飛び降りるのが大好きです。あまりに高いところは危険ですが、かつては子どもたち自身が経験を繰り返すなかから自分の力量を判断する力を身につけたものです。
眼で距離を推測し、身体が対応できるかどうかを学習しているのです。最近はすぐ「危ないからやめなさい」と規制され、子どもたちは自分の身体感覚で危険を察知したり判断する能力を失っています。
大人の指導はもちろん大切です。無謀な行動にはあらかじめ注意や警告が必要ですが、段差のあるところから軽く飛び降りる経験は、「内の眼、外の眼」の感覚を高めます。
しかも、自分の身体が空中に浮く感じは、人間に一種の特別なひらめきを与えるようです。人間にプラスアルファの力を与える浮遊感を体感するためにも、ちょっとジャンプする楽しさを子どもたちからやみくもに奪わないことも大切です。
テレビゲームのあとは、必ず遠くを見る、外に出る。テレビゲームがぜったいにいけない、というつもりはありません。
私自身、時にはビジョントレーニングに画面を使う場合もあります。しかし、そのバランスや時間が問題です。
他に何もせず、それだけをやりつづけるのは多くの弊害を生じます。プレーしたあとの整理運動などの対策が必要です。
「タバコの吸いすぎに注意しましょう」「お酒はほどほどに」というのと同じ。「テレビゲームを楽しみながら、人が健康を維持する方法」は、各分野の方々がそれぞれ真剣に研究されるべきテーマだと思います。
ここでは、眼の観点からアドバイスをしておきます。身体接触を通じて、痛みやぬくもりを覚えるテレビゲーム世代の子どもたちのもっとも大きな問題は、他人との身体接触の機会が少なく、痛みやぬくもりを現実的に感じる機会が少ないことです。
親子で相撲をしたり、じゃれあったり、友だち同士で取っ組み合いに近い遊びを重ねることは、実は眼と脳の関係を発育させるうえでも大切です。眼でものを見れば、触覚(肌触り)も同時に感じるものです。
このスピードで当たれば、どれほどの痛みがあるのか、この重さを動かすのに、どのくらい力が必要なのか、眼で見て身体で感じて学習しているのです。見た目には軽そうに感じたものが、持ち上げようとしたら予想以上に重く、筋肉にズキッと嫌な感覚が走ったなどの経験はありませんか?これは眼で見たとき、身体が対応の準備をしているからです。
テレビゲームを楽しんだあとは、遠くを見る。開散運動をふくんだ眼球運動を行う。
できれば必ず屋外に出て、実際の風景を見たり、社会と接する。プレーする時間を長くしすぎない。
あるいは、同じ時間スポーツをする。自分の身体を使って行うスポーツや音楽などの趣味をあわせて持つ。
匂い、熱さ、痛さ、5感を刺激する。5感を刺激することは、内の眼、外の眼を活性化するうえでもっとも大切な要素のひとつです。
ほんとうは、生活するすべての人たちが、眼の使い方の基本を幼いころから学び、「眼をどう使えば楽に行動できるか、自分の能力を引き出せるか」、人としての大切な基本を身につけるべきだと考えています。すでに紹介したとおり、これまで「精神力が弱いためだ」とか、「素質がない」とか、他の理由で開花を阻まれていた素質が、眼を鍛える、眼に対する認識を変えるだけで大きく花開く可能性があります。
あらためて眼の大切さを認識し、新しい人生を切り開く第1歩を踏みだしてください。人の記憶や発想は、5感と強く結びついています。
機械化され、自然の少ない現代の都会生活では、いい意味での5感の刺激が失われつつあります。けれど、その気になって外を見回せば、案外、5感を触発する風景や状況はあるのです。
たとえば、四季折々に変わる風景、風の微妙な変化、街を歩けば香ってくる花々の匂い、鳥たちのさえずり……。子どもたちは(大人たちもですが)、それらをうっかり見過ごして暮らしています。
意識して、5感に触れる感覚を探し、発見し、体感して楽しむ習慣を子どもといっしょに身につけてください。眼の運動機能を高めるビジョントレーニングは、アメリカでは1980年代から体系化され、日本でも数年前からスポーツ選手を中心に活用されはじめています。
私も最初はアメリカ式のビジョントレーニングに驚き、圧倒されていましたが、けっしてそれが眼に関するすべてを網羅していない気がして、独自の観点から探求を重ねてきました。私が主宰する「視覚情報センター」では、「内の眼」「外の眼」といった独自の発想を加え、より生活に即した「眼と人の関係」を指導しています。
私はつくづく日本に生まれた幸せを感じています。日本の武術に関する書物には、眼に関する記述が驚くほど多く記され、ヒントが山ほどあるからです。
眼がいかに人間の心や身体の動きと密接に関わっているか、眼で心や身体を動かすこともできるという現実をよく教えてくれます。「眼を手がかりに人間の不思議の謎を解いていく」「より豊かな人生づくりに貢献する」私自身の探求はもちろん、これからもまだ続きます。
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